系外惑星は恒星の「瞬き」で見つかる? トランジット法の原理と成果
はじめに
宇宙には、私たちの太陽系以外にも、多くの惑星が存在していることが分かっています。これらの太陽系外に存在する惑星は「系外惑星」と呼ばれており、これまでに5000個以上が見つかっています。
しかし、地球から非常に遠く離れたこれらの小さな天体を、いったいどのようにして見つけているのでしょうか。系外惑星を観測するための技術は様々ありますが、中でも多くの惑星発見に貢献しているのが「トランジット法」という方法です。
この記事では、トランジット法がどのような仕組みで系外惑星を見つけるのか、この方法で何が分かるのか、そしてどのような成果を上げてきたのかについて、初心者の方にも分かりやすく解説いたします。
トランジット法とは? その原理を分かりやすく解説
トランジット法は、惑星がその恒星の手前を通過する際に起こる現象を利用した観測方法です。
「トランジット(Transit)」とは、もともと天文学ではある天体が別の天体の手前を横切る現象全般を指す言葉です。系外惑星の観測におけるトランジットとは、惑星が私たちの視点から見て、その恒星の手前を通過することを指します。
恒星の手前を惑星が通過すると、惑星によって恒星からの光の一部が遮られます。これは、例えば部屋の明かりの前を小さな虫が横切ると、ほんの一瞬だけ明かりがわずかに暗くなるようなイメージです。
トランジット法では、この恒星の光がわずかに弱まる(減光する)現象を、望遠鏡で精密に観測します。もし恒星の明るさが、定期的に、かつ一定量だけ減少するパターンが検出されれば、その恒星の周りを惑星が周期的に公転しており、私たちの視線と恒星・惑星の軌道面がちょうど一致している可能性が高いと判断できるのです。
(図1:トランジット現象の想像図と恒星の明るさの変化(光度曲線)のイメージ)
恒星の明るさの変化を時間の経過とともにグラフにしたものを「光度曲線(こうどきょくせん)」と呼びます。トランジットが起こると、光度曲線には特徴的なV字やU字型の落ち込みが現れます。この落ち込みの深さや持続時間、繰り返し観測される間隔などを詳しく分析することで、惑星のさまざまな情報を得ることができます。
トランジット法でわかること
トランジット法で恒星の光度曲線を観測することにより、いくつかの重要な情報を知ることができます。
- 惑星の存在: 定期的な減光が観測されれば、惑星が恒星の周りを公転している強い証拠となります。
- 惑星のサイズ(半径): 恒星の光がどれだけ遮られたか(減光率)から、惑星の恒星に対する相対的な大きさを計算できます。もし恒星のサイズが分かっていれば、惑星のおおよその半径を知ることができます。これは、トランジット法の最も直接的な成果の一つです。
- 軌道周期: 惑星が恒星の手前を通過する間隔は、その惑星の軌道周期(恒星の周りを一周するのにかかる時間)に相当します。
- 惑星系の配置: 一つの恒星に対して複数の惑星がトランジットを起こす場合、それぞれの惑星の軌道周期や半径、相対的な位置関係などを推測することができます。
また、トランジットが起きている最中に恒星の光が惑星の周囲の大気を通過する際、大気に含まれる物質が特定の波長の光を吸収することがあります。この吸収パターンを詳しく分析することで、その惑星の大気にどのような成分が含まれているかの手掛かりを得られる可能性もあります。
トランジット法の利点と限界
トランジット法は、系外惑星探査において非常に強力なツールですが、利点と限界があります。
利点: * 効率的な発見: 一度に多くの恒星を広範囲にわたって観測することで、大量の系外惑星候補を効率的に見つけることができます。 * 惑星のサイズがわかる: 惑星の半径を直接的に見積もることができる数少ない方法の一つです。 * 大気研究の可能性: トランジット時に大気を通過する光の分析から、大気成分の手がかりを得られる可能性があります。
限界: * 軌道配置の制約: 惑星の軌道面が私たちの視線に対してほぼ真横(エッジオン)でないと、トランジット現象は観測できません。ランダムな方向を向いた惑星系では、たまたまトランジットが起こる確率は比較的低いとされています。 * 質量の制約: トランジット法単独では、惑星の質量を知ることはできません。惑星の密度を知るためには、トランジット法で得られたサイズの情報と、後述する視線速度法などで得られた質量情報を組み合わせる必要があります。 * 恒星の種類による影響: 恒星活動による明るさの変動が大きい場合、トランジットによるわずかな減光を区別するのが難しくなることがあります。
特に、トランジット法は恒星に近い軌道を公転する惑星や、恒星に対してサイズの大きな惑星(例えば木星のような巨大ガス惑星やスーパーアース)を見つけやすい傾向があります。
トランジット法による主な発見事例
トランジット法は、系外惑星研究に革命をもたらしました。特に、宇宙空間から多くの恒星を継続的に観測した宇宙望遠鏡が大きな成果を上げています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のケプラー宇宙望遠鏡は、このトランジット法を用いて、約4年間の観測期間中に2,600個以上の系外惑星を発見しました。ケプラーの観測により、私たちの銀河系には恒星の数よりも多くの惑星が存在する可能性があることが示唆されています。
ケプラーの後継機であるTESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)宇宙望遠鏡も、全天の明るい恒星を対象にトランジット法で惑星を探しており、これまでに数千個の新たな惑星候補や惑星を発見しています。
トランジット法で発見された有名な系外惑星系としては、わずか39光年先の赤色矮星の周りに、地球とほぼ同じサイズの惑星が7つも公転しているTRAPPIST-1系などが挙げられます。これらの惑星の一部は、ハビタブルゾーン(生命が存在しうる液体の水が存在可能な領域)内に位置している可能性があり、生命探査のターゲットとしても注目されています。
また、ケプラーやTESSによって、ホットジュピター(恒星のすぐ近くを公転する巨大ガス惑星)やミニネプチューン(海王星より小さいが地球より大きいガス惑星)など、太陽系にはない多様なタイプの系外惑星が大量に見つかりました。これらの発見は、惑星系の形成や進化に関する私たちの理解を深める上で非常に重要です。
まとめ
この記事では、系外惑星を検出する主要な方法の一つであるトランジット法について解説しました。
トランジット法は、惑星が恒星の手前を通過する際に起こるわずかな減光を捉えることで、惑星の存在、サイズ、軌道周期などを知ることができる強力な手法です。すべての惑星系に適用できるわけではありませんが、ケプラーやTESSといった宇宙望遠鏡による大規模な探査で、多くの系外惑星、特に恒星の近くを公転する惑星や比較的サイズの大きい惑星を発見し、その多様性を明らかにする上で中心的な役割を果たしてきました。
トランジット法で得られた惑星のサイズの情報と、他の観測方法(例えば視線速度法)で得られた質量情報を組み合わせることで、その惑星の密度を計算し、地球のような岩石惑星なのか、それとも海王星のようなガス惑星なのかといった、おおよそのタイプを知ることも可能になります。
今後もトランジット法は、他の観測技術と連携しながら、未知の系外惑星の発見や、既知の惑星の詳細な研究(特に大気観測)において重要な役割を担っていくと考えられます。