太陽系外プラネット図鑑

見えない惑星を重力で捉える:マイクロレンズ法による系外惑星探査

Tags: マイクロレンズ法, 重力レンズ, 観測方法, 浮遊惑星, 系外惑星探査

宇宙には無数の恒星があり、その多くに惑星が伴っていると考えられています。これらの「系外惑星」を見つけるために、これまで様々な観測方法が開発されてきました。例えば、惑星が恒星の手前を横切る際に恒星の光がわずかに暗くなる様子を捉えるトランジット法や、惑星の重力によって恒星が揺れ動く様子を捉えるドップラー分光法などがよく知られています。

しかし、これらの方法では、恒星のすぐ近くにある惑星や、地球から比較的近い場所にある惑星が見つけやすいという特徴があります。もっと遠くにある惑星や、恒星から大きく離れた場所にある惑星、あるいは主星を持たない「浮遊惑星」を見つけるには、別の方法が必要になります。

そこで活躍するのが、「重力マイクロレンズ法」と呼ばれる観測方法です。この方法は、宇宙の遠くにある天体から届く光が、手前にある天体の重力によって曲げられる「重力レンズ効果」を利用した、少し特別な探し方です。

重力マイクロレンズ法の原理

重力マイクロレンズ法の基本原理は、アインシュタインの一般相対性理論によって予言された「重力レンズ効果」に基づいています。これは、質量を持つ天体(恒星や銀河など)の近くを通る光が、その重力によって曲げられるという現象です。

分かりやすく言うと、遠くにある明るい星(これを「光源星」と呼びます)の光が、私たち地球と光源星の間に偶然並んだ別の天体(これを「レンズ天体」と呼びます)の近くを通過する際に、レンズ天体の重力で光の道筋が曲げられます。まるで凸レンズのように光が集まるため、光源星が実際よりも明るく、場合によっては複数の像に見えたり、リング状に見えたりすることがあります。

重力マイクロレンズ効果は、この重力レンズ効果の中でも、光源星とレンズ天体、そして地球がほぼ一直線上に非常に精密に並んだときに起こる現象を指します。この場合、光源星の像が引き伸ばされ、その結果として光源星の明るさが一時的に増して見えます(図1:重力マイクロレンズ効果の概念図)。

図1:重力マイクロレンズ効果の概念図(※実際の図は読者側で表示) * 遠くの光源星から出た光が、途中のレンズ天体の重力によって曲げられ、地球に届く際に明るさが増して見える様子。

この「増光」の度合いや、時間経過に伴う明るさの変化(これを「増光曲線」と呼びます)は、レンズ天体の質量や動きによって決まります。

もしレンズ天体が恒星だけであれば、単純な形の増光曲線が観測されます。しかし、もしその恒星に惑星が伴っていた場合、その惑星の小さな重力も、恒星の大きな重力に加えて光をわずかに曲げます。この惑星による追加の重力レンズ効果は、恒星だけの増光曲線に、惑星による短い時間の、特徴的な増光または減光の「ピーク」あるいは「ディップ」として現れます(図2:惑星を持つ場合の増光曲線の例)。

図2:惑星を持つ場合の増光曲線の例(※実際の図は読者側で表示) * 時間に対する明るさの変化を示すグラフ。恒星による増光曲線に、惑星の通過による短いピークやディップが重なって現れる様子。

私たちはこの惑星によるわずかな変化を捉えることで、「そこに惑星が存在する」という証拠を得ることができるのです。

マイクロレンズ法による観測の実際

重力マイクロレンズ効果は、光源星、レンズ天体(恒星と惑星)、そして地球が宇宙空間で偶然、非常にきれいに並んだときにだけ起こります。この並びは一度きりであり、数日から数週間の比較的短い期間しか続きません。そのため、この現象を捉えるためには、夜空の非常に多くの星を継続的に監視し、明るさの変化を見逃さないように注意深く観測を続ける必要があります。

この目的のために、世界中で多くの望遠鏡が連携し、大規模な観測プログラムが実施されています。例えば、ポーランド主導のOGLE (Optical Gravitational Lensing Experiment) や、日本とニュージーランドが協力しているMOA (Microlensing Observations in Astrophysics) といったプロジェクトは、数十万から数百万個もの星を毎晩のように観測し、マイクロレンズ効果が起こるイベント(事象)を探しています。

この方法で見つかる惑星の特徴

重力マイクロレンズ法には、他の観測方法にはないいくつかのユニークな特徴があります。

  1. 遠方の惑星系: この方法は、光源星やレンズ天体までの距離にあまり依存しないため、トランジット法やドップラー分光法では難しい、地球から数千光年以上離れた遠方の系外惑星系を見つけるのに適しています。
  2. 主星から離れた惑星: レンズ天体の「アインシュタイン半径」と呼ばれる領域を通過する際に効果が現れやすいため、主星から比較的離れた軌道にある惑星(太陽系で言えば木星や土星のような位置関係)を見つけやすい傾向があります。
  3. 比較的軽い惑星: 惑星による増光の変化は、惑星の質量が大きいほど顕著になりますが、質量比(恒星に対する惑星の質量の比)が小さくても検出が可能です。そのため、木星のような巨大ガス惑星だけでなく、スーパーアース(地球より大きく海王星より小さい岩石惑星やガス惑星)や、時には地球程度の質量の惑星も見つかっています。
  4. 浮遊惑星: マイクロレンズ法が特に威力を発揮するのが、「浮遊惑星(フリーフローティングプラネット)」の探査です。これは、特定の主星を持たずに銀河の中をさまよう惑星のことです。トランジット法やドップラー分光法は主星の光や動きを頼りにするため、主星のない浮遊惑星を見つけることは原理的に困難です。しかし、マイクロレンズ法であれば、浮遊惑星自身が光源星の光を曲げるレンズ天体となるため、その存在を捉えることができます。これにより、宇宙にどれくらいの数の浮遊惑星が存在するのかを知る手がかりが得られています。

マイクロレンズ法が系外惑星研究にもたらすもの

重力マイクロレンズ法による観測は、系外惑星の多様性、特に遠方の惑星系や主星から離れた位置にある惑星、そして浮遊惑星についての貴重な情報をもたらしてくれます。

まとめ

重力マイクロレンズ法は、遠く離れた宇宙の星々から届く光と、その手前にある見えない惑星の重力を利用して、系外惑星の存在を明らかにする革新的な技術です。この方法は、他の観測方法では見つけにくい、主星から離れた惑星や、特に主星を持たない浮遊惑星の探査において重要な役割を果たしています。

大規模な観測プログラムによって日々データが集められており、今後もマイクロレンズ法によって、私たちの想像を超える多様な系外惑星や惑星系の姿が明らかになっていくことが期待されます。

太陽系外プラネット図鑑では、これからも様々な系外惑星のタイプや、それらを見つけるための探査技術について、分かりやすくお伝えしていきます。