系外惑星発見を加速させた宇宙望遠鏡:ケプラー、TESS、JWSTなどの軌跡
地球の外にも広がる惑星の世界
太陽系以外の恒星の周りを公転する惑星は、「系外惑星」と呼ばれています。1990年代半ばに最初の系外惑星が発見されて以来、その数は爆発的に増加しており、現在では5000個以上が確認されています。この驚異的な発見数の増加の背景には、宇宙空間に打ち上げられた高性能な「宇宙望遠鏡」の存在が不可欠です。
地球上からの観測では、大気の揺らぎや光の吸収などにより、遠く離れた系外惑星を捉えるには限界があります。しかし、地球大気圏の外から宇宙を観測できる宇宙望遠鏡は、よりクリアで精密なデータを取得することを可能にしました。
この記事では、系外惑星研究を大きく前進させた主要な宇宙望遠鏡ミッション、特にケプラー宇宙望遠鏡、TESS、そしてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)に焦点を当て、それぞれの功績や発見方法について分かりやすく解説します。
系外惑星探査の先駆者:ケプラー宇宙望遠鏡
系外惑星の発見数を飛躍的に増加させた最も有名な宇宙望遠鏡の一つが、「ケプラー宇宙望遠鏡」です。NASAによって2009年に打ち上げられ、2018年に運用を終えるまで、約9年間にわたり観測を行いました。
ケプラー宇宙望遠鏡の最大の功績は、観測対象とした約15万個の恒星を継続的に監視し、非常に多くの系外惑星候補を発見したことです。特に、恒星の手前を惑星が横切る際に恒星の光がわずかに暗くなる現象を利用する「トランジット法」という観測方法に特化していました。
(図1:トランジット法の概念図 - 恒星の手前を惑星が通過し、光が暗くなる様子)
トランジット法は、惑星のサイズ(半径)を知ることができる強力な方法です。ケプラーは、地球に近いサイズの惑星や、恒星のハビタブルゾーン(生命が存在しうる温度範囲の領域)内にある惑星候補を数多く発見しました。これにより、地球のような惑星が宇宙にありふれた存在かもしれないという可能性が示され、その後の系外惑星研究の方向性を決定づけましたと言っても過言ではありません。
ケプラーのデータは現在も解析が続けられており、そのレガシーは生き続けています。
全天候型の系外惑星ハンター:TESS
ケプラーの後継機として、NASAが2018年に打ち上げたのが「トランジット系外惑星探索衛星」(TESS)です。ケプラーが特定の狭い領域を集中して観測したのに対し、TESSは私たちの太陽系の近くにある、より明るい恒星を中心に、全天をカバーするように観測を行っています。
TESSもケプラーと同様にトランジット法を用いて系外惑星を発見します。明るい恒星の周りにある惑星を見つけることに特化しているため、地上望遠鏡や他の観測機器を使った精密な追加観測が比較的容易に行えるという利点があります。これにより、発見された惑星候補が本当に惑星であるかを確認したり、その質量や大気の組成などをさらに詳しく調べたりすることが可能になります。
TESSは、スーパーアース(地球より大きく海王星より小さい岩石惑星)やミニネプチューン(海王星より小さいガス惑星)など、様々な種類の系外惑星を続々と発見しており、近傍の惑星系のカタログ構築に大きく貢献しています。
大気の組成を探る新世代の目:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
2021年に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)は、これまでの系外惑星探査ミッションとは少し異なる役割を担っています。JWSTの主な目的は、系外惑星を「発見する」ことよりも、発見された系外惑星の「大気」を詳しく調べることです。
JWSTは、主に赤外線という人間の目には見えない光で宇宙を観測します。惑星が恒星の手前を通過する際(トランジット)、恒星の光が惑星の大気を通過します。このとき、大気に含まれる様々な分子(水蒸気、メタン、二酸化炭素など)は、特定の波長の光を吸収します。JWSTは、この吸収される光のパターンを精密に測定することで、惑星大気の化学組成を調べることができるのです。
(図2:トランジット時の惑星大気による光の吸収スペクトル - 吸収パターンから大気の成分がわかる様子)
系外惑星の大気組成を調べることは、その惑星の環境を理解する上で非常に重要です。特に、生命の存在を示す可能性のあるバイオシグネチャー(生物活動によって生成されると考えられる分子)を探す上でも、JWSTのような観測能力を持つ望遠鏡が不可欠となります。JWSTは既に、系外惑星大気中に水蒸気や二酸化炭素などを検出するなどの画期的な成果を上げています。
まとめ:宇宙望遠鏡が切り拓く系外惑星研究
ケプラー、TESS、そしてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡といった一連のミッションは、それぞれ異なる強みを持ちながら、協力して系外惑星研究を劇的に進歩させてきました。
- ケプラーは、トランジット法で多数の惑星、特に地球型惑星候補を発見し、系外惑星の多様性や存在頻度についての理解を深めました。
- TESSは、より近くの明るい恒星の周りの惑星を発見し、詳細な追跡観測を可能にしました。
- JWSTは、発見された系外惑星の大気組成を分析することで、その環境や生命の可能性について新たな洞察をもたらしています。
これらの宇宙望遠鏡の活躍により、かつてはSFの世界の存在だった系外惑星が、今や具体的な研究対象となっています。系外惑星に関する知識は日進月歩で更新されており、これらのミッションがもたらすデータは、私たちが宇宙における地球や生命の位置づけを理解する上で、今後も重要な役割を果たしていくでしょう。