太陽系外プラネット図鑑

トランジット観測でわかる系外惑星の大気:光の「色」と変化が語る秘密

Tags: 系外惑星, トランジット法, 大気分析, スペクトル解析, 観測技術, ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡

太陽系外には、私たちの太陽系とは異なる多様な惑星「系外惑星」が数多く見つかっています。その多くは、遠く離れた恒星の周りを公転しており、直接その姿を見ることは非常に困難です。では、私たちはどのようにして系外惑星について様々な情報を得ているのでしょうか?

系外惑星の発見に大きく貢献している観測方法の一つに、「トランジット法」があります。これは、惑星が主星(恒星)の手前を横切る際に、恒星の光がわずかに暗くなる現象(トランジット)を捉える方法です。この方法で惑星の存在や大きさ(半径)、公転周期などがわかります。

しかし、トランジット観測から得られる情報はそれだけではありません。恒星の光が惑星によって完全に遮られるだけでなく、惑星の「大気」をかすめてくる光を詳しく調べることで、その惑星の大気についての貴重な情報を引き出すことができるのです。

トランジット中の光の変化が示すもの

トランジット法では、惑星が主星の光の一部を遮ることで、恒星の明るさが定期的に減少する様子を観測します。このとき、惑星の周囲に大気がある場合、恒星の光は惑星本体に遮られる部分と、大気を透過してくる部分に分かれます。

大気を透過してくる光は、地球の夕焼けや朝焼けで空が赤く見えるように、大気中に含まれる物質(分子や塵など)の種類によって特定の「色」(特定の波長の光)が吸収されたり散乱されたりします。

私たちは、この大気を透過してきた光の「色」ごとの明るさの変化を詳細に分析することで、系外惑星の大気についての手がかりを得ることができます。

透過スペクトル観測の仕組み

トランジット中の恒星の光を、様々な「色」に分解して観測することを「透過スペクトル観測」と呼びます。これは、プリズムを通して光が虹色に分かれるように、望遠鏡で捉えた光を波長ごとに分解し、それぞれの波長でどのくらい光が遮られたかを調べる方法です。

惑星に大気がない場合、恒星の光が遮られる割合は、惑星の大きさ(半径)だけで決まります。したがって、波長によらず光が遮られる割合は一定になります。

一方、惑星に大気がある場合、その大気中に特定の分子(例えば水蒸気やナトリウムなど)が含まれていると、それらの分子が特定の波長の光を強く吸収します。特定の波長の光が強く吸収されると、その波長では恒星の光がより多く遮られたように見えます。つまり、大気がある惑星のトランジットでは、波長によって恒星の光が暗くなる割合が異なってくるのです。(図1:透過スペクトルの概念図)

この波長ごとの減光率の違いをグラフにしたものが「透過スペクトル」です。透過スペクトルには、大気中の分子が吸収する光の波長に対応した特徴的な「山」や「谷」が現れます。このパターンを分析することで、系外惑星の大気中にどのような分子が含まれているかを推定することができるのです。

透過スペクトルからわかること

透過スペクトル観測からは、大気成分の他に、以下のような情報も得られる可能性があります。

観測の難しさと進歩

トランジット中に大気を透過する光は、恒星から直接来る光に比べて非常に微弱です。また、大気による吸収もわずかな光の変化として現れるため、この透過スペクトル観測は非常に高い精度が要求される難しい観測です。

これまで、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡などが透過スペクトル観測で多くの成果を上げてきました。そして近年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が登場し、その非常に高い感度と広い波長範囲での観測能力によって、これまで観測が難しかった小さな惑星の大気や、より詳細なスペクトル情報を取得できるようになっています。これにより、系外惑星の大気に関する理解は飛躍的に進んでいます。(図2:JWSTによる透過スペクトル観測イメージ)

なぜ系外惑星の大気分析が重要なのか

系外惑星の大気を分析することは、単にその成分を知るだけでなく、多くの重要な意味を持っています。

まとめ

系外惑星が主星の手前を通過するトランジット観測は、惑星の発見だけでなく、その大気の様子を探る強力な手段です。大気を透過する恒星の光を「色」ごとに分解して分析する透過スペクトル観測によって、大気中に含まれる分子の種類や雲の有無などがわかります。

この技術は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような最新の観測装置によって大きく進歩しており、私たちは遠く離れた系外惑星の「ベール」に包まれた大気の秘密を解き明かし始めています。大気分析は、惑星がどのような世界なのか、そしてそこに生命の可能性はあるのかを探る上で、今後ますます重要な役割を果たすでしょう。