系外惑星の質量がわかる!ドップラー分光法の仕組みと重要性
恒星の「揺らぎ」を捉える:ドップラー分光法による系外惑星探査
私たちの太陽系以外にも、たくさんの惑星(系外惑星)が見つかっています。現在までに5,000個以上の系外惑星が確認されており、その数は今も増え続けています。これらの遠い世界をどのようにして見つけているのでしょうか?
系外惑星を探す方法はいくつかありますが、この記事では「ドップラー分光法」と呼ばれる主要な観測方法に焦点を当てて解説します。この方法は、特に初期の系外惑星発見に大きく貢献し、惑星の重要な性質である「質量」を知るために欠かせない手法です。
ドップラー分光法は、一体どのような仕組みで惑星を見つけ出すのでしょうか? そして、なぜこの方法で惑星の質量がわかることが重要なのでしょうか? 初めて系外惑星の研究に触れる方にも分かりやすく、ドップラー分光法の秘密に迫ります。
惑星の重力が恒星をわずかに動かす
ドップラー分光法の基本的な考え方は、「惑星の重力によって恒星がわずかに揺さぶられる」という現象を捉えることです。
私たちが見慣れている太陽系の図では、惑星が太陽の周りを回っています。しかし、実際には惑星も太陽に重力を及ぼしており、太陽も惑星の重力によって影響を受けています。太陽と惑星は、どちらか一方が静止しているのではなく、両者が共通の重心(回転の中心)の周りを回っています。
例えば、巨大な木星が太陽の周りを公転すると、その重力によって太陽もわずかに揺らぎます。地球から見ると、この恒星の揺らぎは、恒星が私たちに近づいたり遠ざかったりする動きとして観測されます。この動きの速度を「視線速度」と呼びます。
惑星が恒星の周りを一周する間、恒星は周期的に地球に近づいたり遠ざかったりを繰り返します。この周期的な視線速度の変化を観測できれば、その恒星の周りに惑星が存在すると推測できるのです。
ドップラー効果を利用して視線速度を測る
では、この恒星の視線速度の変化は、どのように測定するのでしょうか? ここで利用するのが「ドップラー効果」と呼ばれる現象です。
ドップラー効果とは、音や光の波が、波源(音を出すものや光を出すもの)と観測者との間の相対的な速度によって、その波長や周波数が変化して聞こえたり見えたりする現象です。救急車のサイレンが、近づくときは高く聞こえ、遠ざかるときは低く聞こえるのは、音のドップラー効果によるものです。
光の場合、恒星が私たちに近づいてくるときは、光の波長が短くなります。これを「青方偏移」と呼びます。逆に、恒星が私たちから遠ざかるときは、光の波長が長くなります。これを「赤方偏移」と呼びます。
恒星の光を詳しく調べると、特定の波長の光が吸収されてできる「スペクトル線」と呼ばれる模様が見られます。(図1:恒星スペクトルの概念図 を想定)このスペクトル線の波長は、恒星が静止していれば一定です。しかし、恒星が私たちに対して動いている場合、ドップラー効果によってスペクトル線の位置がわずかにずれます。近づいているときは青い方へ(波長が短くなる方へ)、遠ざかっているときは赤い方へ(波長が長くなる方へ)ずれるのです。
ドップラー分光法では、このスペクトル線のずれ方を精密に測定することで、恒星の視線速度を非常に高い精度で割り出します。そして、視線速度が周期的に変化していることを確認できれば、その周期から惑星の公転周期を、視線速度の変化の大きさから惑星の質量を知ることができるのです。
(図2:ドップラー効果によるスペクトル線のずれ を想定) (図3:惑星を持つ恒星の視線速度曲線 を想定)
ドップラー分光法で「質量」がわかる理由とその重要性
ドップラー分光法によって測定された恒星の視線速度の変化の大きさは、恒星を揺さぶる惑星の重力の強さに関係しています。重力が強いほど、恒星の揺れは大きくなります。惑星の重力は、その惑星の質量が大きいほど強くなります。したがって、恒星の揺れ(視線速度の変化の大きさ)を測定することで、その惑星のおおよその質量を推定することができるのです。
(ただし、この方法で直接わかるのは「質量下限」と呼ばれる値です。これは、恒星の視線方向に沿った運動から推定される質量であり、惑星の軌道がどのくらい地球から見て傾いているか(軌道傾斜角)が分からない場合、実際の質量はこの下限値以上となります。)
系外惑星の研究において、この質量を知ることは非常に重要です。なぜなら、惑星の質量は、その惑星がどのような種類の惑星であるかを知るための基本的な手がかりとなるからです。
例えば、ドップラー分光法で地球の数倍から数十倍程度の質量を持つ惑星が見つかったとします。もしこの惑星が、別の観測方法であるトランジット法でも見つかっていて、半径も分かっている場合、質量と半径からその惑星の平均密度を計算できます。平均密度が岩石の密度に近ければ地球型惑星、ガスや氷の密度に近ければガス惑星や氷惑星、といったように、惑星がおおよそ何でできているのか、つまり内部構造のヒントが得られるのです。
(表1:検出方法と分かる情報の比較 を想定。例:トランジット法 - 半径、ドップラー分光法 - 質量下限、直接撮像法 - 明るさ、温度など)
ドップラー分光法は、系外惑星探査の黎明期において、木星のような巨大ガス惑星が主星のすぐ近くを公転する「ホットジュピター」と呼ばれる予想外のタイプの惑星を次々と発見し、惑星系の多様性を明らかにする上で決定的な役割を果たしました。
ドップラー分光法の強みと限界
ドップラー分光法には、他の方法にはないいくつかの強みがあります。一つは、惑星が恒星の手前を通過する現象(トランジット)が起きなくても惑星を検出できる点です。トランジットは、惑星の軌道面が地球からの視線方向とほぼ一致している場合にしか観測できませんが、ドップラー分光法は比較的幅広い軌道傾斜角の惑星を検出できます。また、惑星の質量という根本的な情報を得られることも大きな利点です。
一方で、限界もあります。この方法は、恒星の揺れを検出するため、恒星に対する惑星の質量比が大きいほど検出が容易になります。そのため、地球のような質量の小さな惑星を見つけるのは、現在の技術では非常に困難です。木星や海王星のように、地球よりもずっと重い惑星の検出が得意な方法と言えます。また、恒星自身の表面活動によるスペクトル線の変化がノイズとなり、検出を難しくすることもあります。
まとめ:多様な観測方法で系外惑星の姿に迫る
ドップラー分光法は、恒星のわずかな「揺らぎ」を光の波長の変化(ドップラー効果)として捉えることで、遠く離れた系外惑星を発見し、その質量を知ることができる画期的な観測方法です。
この方法によって、多くの巨大ガス惑星、特にホットジュピターのような、私たちの太陽系とは大きく異なる惑星が存在することが明らかになり、惑星系の形成や進化に関する私たちの理解を大きく塗り替えました。
現在では、トランジット法をはじめとする他の観測方法と組み合わせることで、惑星の半径と質量の両方を知り、その惑星がどのような世界なのか、より詳しく探ることが可能になっています。
ドップラー分光法は、系外惑星探査の基礎を築き、今なお系外惑星の多様性を明らかにする上で重要な役割を果たしています。これからも、観測技術の進歩によって、この方法を含む様々な手法で、宇宙に広がる多様な惑星たちの姿が次々と明らかになっていくことでしょう。