太陽系外プラネット図鑑

星の「ふらつき」を測る:アストロメトリ法で系外惑星を探す仕組み

Tags: アストロメトリ法, 観測方法, 系外惑星探査, 位置天文学, 惑星質量

はじめに:星のわずかな動きに隠された惑星の証拠

これまで、このサイトでは様々な系外惑星の種類や特徴、そして多様な観測方法についてご紹介してきました。系外惑星を探す方法には、恒星の明るさの変化を捉えるトランジット法や、恒星のスペクトル線のずれから速度の変化を捉えるドップラー分光法などがあります。これらは主に、惑星が恒星の手前を通過したり、恒星を引っぱることで速度を変えたりする際に生じる現象を観測するものです。

しかし、系外惑星の存在を示す証拠は、恒星そのものの「位置」のわずかな変化にも隠されています。それが今回解説する「アストロメトリ法」です。この方法は、遠く離れた恒星の、宇宙空間における位置の精密な変化を測定することで、その周りを公転する惑星の存在や性質を知るものです。

この記事では、アストロメトリ法がどのような仕組みで系外惑星を見つけ出すのか、この方法で何がわかるのか、そして系外惑星の研究においてどのような意義を持つのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

アストロメトリ法の仕組み:惑星が主星を「引っぱる」力

アストロメトリ法を理解するためには、まず「共通重心」という考え方を知る必要があります。宇宙において、互いに重力で引き合っている二つの天体(例えば恒星と惑星)は、どちらか一方の周りを回るのではなく、二つの天体の「共通重心」の周りを回っています。共通重心は、二つの天体の間のどこかに位置し、それぞれの質量が大きいほど、共通重心はその天体に近くなります。

例えば、太陽と地球の場合、太陽が圧倒的に重いため、共通重心は太陽の内部にあります。しかし、それでも太陽はこの共通重心の周りをわずかに動いています。惑星の質量が大きいほど、また主星に近い軌道を回るほど、この共通重心は主星から離れ、主星の動きは大きくなります。

私たちは地球から遠く離れた恒星を観測していますが、その恒星の周りに大きな惑星がある場合、恒星は共通重心の周りを公転するため、私たちの視線に対してわずかに「ふらつく」ような動きをします(図1:共通重心の周りを回る恒星と惑星のイメージ図)。

アストロメトリ法は、この恒星の「ふらつき」を、背景にある遠方の恒星などとの相対的な位置関係の精密な測定(位置天文学、英語でAstrometry)によって捉える方法です。恒星が共通重心の周りを一周するごとに、この「ふらつき」も周期的なパターンを描きます(図2:地球から見た恒星の「ふらつき」の軌跡のイメージ図)。この「ふらつき」の大きさと周期を詳しく分析することで、以下のような惑星の情報を推測することができます。

アストロメトリ法の難しさと利点:高精度な測定が鍵

恒星の「ふらつき」は、遠く離れている私たちから見ると非常に小さく、角度にしてミリ秒角(1秒角の1000分の1)以下のレベルであることがほとんどです。これは、地球から見た100km先の1円玉の大きさに匹敵するほど小さな角度です。そのため、アストロメトリ法で系外惑星を探すためには、非常に高い精度で恒星の位置を測定できる観測装置が必要となります。

地上からの観測では、地球の大気の揺らぎが恒星の見かけの位置を絶えず変化させてしまうため、高精度なアストロメトリ観測は非常に困難でした。しかし、宇宙空間に望遠鏡を設置することで、大気の干渉を受けずに安定した高精度な位置測定が可能になりました。欧州宇宙機関(ESA)の「ガイア」衛星は、まさにこの位置天文学に特化したミッションであり、膨大な数の恒星の精密な位置と動きを測定し続けています。

アストロメトリ法で得られる情報には、他の観測方法にはない重要な利点があります。特に、惑星系の「軌道の傾き」がわかる点です。トランジット法やドップラー分光法は、私たちの視線と惑星の軌道が特定の角度にある場合に特に有効ですが、アストロメトリ法では比較的幅広い軌道傾角の惑星を検出できる可能性があります。

また、ドップラー分光法では、検出された惑星の質量は「真の質量×軌道傾角に関連する因子」という形でしか求まりませんが、アストロメトリ法で軌道傾角が分かれば、惑星の「真の質量」を直接的に推定することができます。これは、惑星の内部構造や組成を推測する上で非常に重要な情報となります。

アストロメトリ法が拓く系外惑星研究の展望

アストロメトリ法は、観測技術の発展によって近年その重要性が増しています。特にガイア衛星のような高精度な宇宙望遠鏡の登場により、これまでは難しかった系外惑星の検出や詳細な情報の取得が可能になってきました。

この方法が得意とするのは、主星からある程度離れた軌道を回る、比較的質量の大きな惑星の検出です。これは、主星に近い軌道の惑星を得意とするトランジット法やドップラー分光法とは異なる領域であり、これらの方法だけでは見つけられなかったタイプの系外惑星や惑星系構造を知る手がかりとなります。

例えば、アストロメトリ法で複数の惑星が見つかれば、それぞれの惑星の質量と軌道が精密に分かるため、惑星系全体の力学的な安定性や進化についてより深く理解することができます。また、他の方法(特にドップラー分光法)とアストロメトリ法で得られた情報を組み合わせることで、惑星系の三次元的な構造や、各惑星の真の質量をより正確に決定することが可能になります。

まとめ:星の動きから探る、宇宙の新たな世界

系外惑星を探すアストロメトリ法は、遠く離れた恒星の、目には見えないほどのわずかな「ふらつき」を精密に測定するという、高度な技術に基づいた方法です。惑星が主星を引っぱる重力による共通重心の周りの運動を捉えることで、惑星の存在だけでなく、その質量や軌道といった重要な情報をもたらします。

アストロメトリ法は、トランジット法やドップラー分光法など他の観測方法を補完し、それぞれが得意とする惑星のタイプが異なるため、組み合わせて使うことで、系外惑星系の全体像をより立体的に、そして正確に描き出すことができます。

高精度な宇宙望遠鏡によるアストロメトリ観測は、これまで見つけにくかったタイプの系外惑星を発見し、惑星系の形成や進化の謎に迫る上で、今後ますます重要な役割を果たしていくと考えられます。星のわずかな動きに耳を澄ますように、私たちはアストロメトリ法を通して、宇宙に広がる多様な惑星世界の姿を明らかにしていくのです。